正義はとても不安定なもので、ある日、突然逆転する。
どんなに善良な人も戦場で敵に銃を向けられたら、身を守るために撃たなければならなくなる。こうして人殺しや残虐行為など、平時には考えられないことも、「やらなければならない」と思うようになってしまうのだ。
太平洋戦争に駆り出された時、この戦争は聖戦であり、「日本は苦しんでいる中国の民衆を救うために戦うのだ」と聞かされていたのに戦争が終わったとたんに、正義の論理はあっけなくひっくり返って「日本軍は中国を侵略した」となったのだ。
正義はある日、突然逆転するものだと骨身にしみて思い知らされた。
今も世界には、一触即発、明日にも戦争が起こりそうな国や地域がある。どこでも、自国こそ正義であり、相手国は不義だと思っている。
だが、正義は信じがたいものである。正義ほど不安定なものはないということを、しっかり目を開いて知らなければならない。
やなせたかし『アンパンマンの遺書』より抜粋